7月の読書感想文 『ONE PIECE』

「お前に足りないものはすべてこの中にある」

 

そう言って、旦那が小3の息子に差し出したのは尾田栄一郎の『ONE PIECE』。

海賊の少年・ルフィが仲間と共に「ひとつなぎの大秘法(=ワンピース)」を求め旅する物語で、今月22日に集英社の「週刊少年ジャンプ」で連載20周年を迎える日本を代表する人気漫画である。

 

『ONE PIECE』の世界は、ほんの一握りの特権階級で組織された「世界政府」によって支配されている。

不都合が生じれば、その地に住むものもろともに地図から消し去るほどの力を持つ世界政府。

歪んだ正義の名の下に、虐げられてきた者たちの物語が『ONE PIECE』には幾つも描かれている。

 

その一つ、魚人(ぎょじん)の物語がある。(魚人島編)

 

 

 

魚類の身体的特徴を持つ魚人族は、人間からの理不尽な差別や迫害に長く苦しめられてきた歴史を持つ。

そんな人間への恐怖と憎悪が染みついている魚人族の中にあって、差別は相手を知らないがゆえに生じるのだという考えを持つ者が現れる。

1人はまず自分たちが人間を知ろうと叫び、1人は人間が許せなくとも、せめて子供たちへと続く憎しみの連鎖は断ち切ろうと叫んだ。

その声は、周囲の魚人たちの心を大きく揺さぶる。

 

この物語を読んで思い出すのは『ダンマパダ』というお釈迦さまの言葉が集められた仏典の中にある一節である。

 

実にこの世においては、怨みに報いるに恨みを以てしたならば、つい怨みの息(や)むことがない。

怨みをすててこそ息む。これは永遠の真理である。

(中村元『ブッダの真理のことば』より)

 

2500年も前に唱えられた憎しみや怨みの連鎖を断ち切る真理の言葉である。

 

害され、その感情のままに相手に返せば、またその感情のままに害される。

憎しみ、怨みを繰り返さない。

そのために、まず自分が振り上げた拳をおろし、その感情を捨てること。

 

言葉にするのは簡単だが、大事なものを害されたのなら並大抵のことではないだろう。

それでも魚人の2人は、拳を振り上げることもせず、受け流す努力をした。

しかし、怨む心と憎しみの刃を捨てた2人ともが、魚人族と人間それぞれの種族に引き継がれた「怨念」によって殺されてしまうのである。

 

そこに描かれていたのは、害されるという自らの実体験がなくとも、語り継がれてきた感情が畏怖を生み、差別を生み、憎しみを生み出す現実だった。

 

自らが思考する前に植え付けられてしまった感情と先入観。

それらに疑問を持つこともなく、さらに次へと植え付けていく。

そういう実体のない差別や憎しみが連鎖して生まれた「怨念」。

決して他人事ではない、そういうものが描かれていた。

 

主人公のルフィは、人間である自分を嫌っていた魚人族を友達だと言い、彼らのために命懸けで戦った。

悪魔の実を食べ部分的に人間化し、バケモノと恐れられていたトナカイのチョッパーを、世界政府に追われ生きることが罪だと言われたロビンを、死ねずに骸骨のまま生き続けているブルックを、ルフィを当然のように仲間にした。

 

先入観もなく、人種や生い立ちや容姿にとらわれることもなく、自分から相手に近づき知ろうとする。

それは驚くほど単純で驚くほど難しいこと。
その単純で難しいことを、国の汚点であると不都合な存在として焼き消される側の立場にあって、怨念が育つに十分な環境で育ったルフィが自然にできているということの重大さを、息子と一緒に読み返しながら改めて感じていた。
息子だけでなく、私に足りないものが、この中には確かにある。
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